「ロッテ アイス事業に10年ぶりの新風を」若き開発チームの挑戦
新ブランド「アジアに恋して」誕生の舞台裏
2026.08.18
「ひとくちで、旅するみたい」──こんなキャッチフレーズとともに2026年4月、新登場したカップアイス「アジアに恋して」。年々暑くなる一方の日本の夏に向けて、亜熱帯気候のアジア圏で人気のデザートをアイスで再現し、メインターゲットのZ世代を中心に話題を呼んでいます。株式会社ロッテにとって10年ぶりとなるアイス新ブランド開発を託されたのは、2023年入社の若手コンビ。商品化にあたって苦労した点やうれしかったことなどを、語ってもらいました。
ロッテアイスクリームが誕生したのは1972年。先行する大手の多くが乳業系メーカーだったことから植物性脂肪に着目し、イタリアの製法に学んださっぱりとしたカップアイス「イタリアーノ」をはじめとする34種類を一斉に発売して、アイス市場に初参入しました。その後、もちでアイスを包むという菓子メーカーならではの発想で生まれた「雪見だいふく」(1981年)、食べ応えあるビッグサイズのモナカアイス「モナ王」(1996年)、微細氷によるシャリっとした新食感の「爽」(1999年)、パウチ容器入りの“飲むアイス”「クーリッシュ」(2003年)とヒットを飛ばし、新たな市場を開拓してきました。
これまでにないコンセプトのアイスを次々に開発しては定番ブランドに育ててきたロッテが、満を持して新たに市場投入した「アジアに恋して」。生みの親は、ロッテ マーケティング本部 新商品開発部 チャネル商品開発課の西山侃輔さんと、荻野まみさんです。西山さんは飲料メーカーから転職し、すぐに商品開発部に配属。新卒入社の荻野さんは当初ロッテ 中央研究所 アイス研究部 アイス研究一課に所属し、研究者として「アジアに恋して」の開発に関わったのち、2026年3月に現職に異動しました。
半世紀に及ぶロッテのアイス事業において、変化する市場を捉え、新たな原動力となっているのが20、30代の若手マーケターたちです。今回、新ブランドに挑んだ2人は、ロッテアイスの特長を「形態や容器にこだわらない、オリジナリティのある発想力」(西山さん)、「後発かつ乳業メーカーではないからこその、他社とは違った戦い方」(荻野さん)と捉えています。ロッテならではの自由な雰囲気のなかで、新ブランドのコンセプト作りが始まりました。
西山さんはまず、アイスの売れ行きに大きく影響を及ぼす気候の変化に目を向けました。猛暑日が増えたことで、亜熱帯地域で好まれるような味覚や風味が日本でも求められていると考えたのです。一方、国内におけるアイスのトレンドをリサーチすると、「プレミアムアイス市場で、若年層の流出が非常に大きい」ことが見えてきました。アイスを買わなくなった若い世代は、代わりに何を選んでいるのか。「おしゃれ感のあるコーヒーチェーン店や、タピオカブームが去ったあとも客足が絶えないアジアンティー専門店のドリンクやスイーツ、コンビニで手軽に買えるチルドスイーツなどに流れているのではないか」と分析した西山さんは、「アイス離れ」を起こしているZ世代、特にトレンドセッターである女性をメインターゲットとすることにしました。
さらに西山さんが注目したのは、アジアンブームです。コスメやファッションのみならず、食においてもさまざまなアジアの国の料理店が増えたり、現地でしか手に入らなかった食材や調味料がスーパーの店頭に並んだりと、異国情緒を感じられるアジアンテイストが広い支持を集めています。「気候変動・若年層・アジアントレンド」を掛け合わせると、これまでにないアイスを生み出せるのではないか──開発の方向性が具体化してきました。
新ブランドのアイスに使用する原材料やその配合、製法などを検討・提案する立場だった荻野さんは、まさにZ世代。「ターゲット層の一人として貢献したい」と意欲的に取り組みました。「アジア」と聞いて、「大学の卒業旅行先としてアジア圏の国々は人気でしたし、アジア系のお店にもよく行くので、私たちの世代には身近な存在だと感じました」と話す荻野さん。西山さんとコンビを組み、パッケージデザイナーとともに台湾への視察にも参加しました。現地では、ネオンのビビッドな色使い、若者が集まる街の雰囲気、夜市、素材の味を活かしたスイーツなどから多くのヒントを得ることができました。これらの情報をどう日本向けのアイスに落とし込むかを何度も話し合い、特定の国や地域のイメージを強く打ち出すのではなく、「爽やかで心地よい異国情緒感のある味わいと香りが、開放的な気分にさせてくれるアジアンデザートアイス」をキーコンセプトに据えることが決まりました。それはまた、「高級アイス=リッチなミルク感」という先入観を打ち破る挑戦でもありました。
アイスを1色にするのか2色にするのか、ソースを中に入れるのか混ぜ込むのか、ミルク感を強くするのか、お茶の苦味をどの程度出すのか──。マーケティング部門と研究部門が密に連携し、味だけでなく、蓋を開けた時のワクワク感や見た目の楽しさも重視して、いくつもの試作品が作られました。「2色のアイスを渦巻き状に充填するなど構造が複雑で、これまでロッテアイスで使ったことのない原料も含まれていたため、量産化に向けて工場との調整を何度も重ねました」と荻野さんは振り返ります。
ブランド名の検討とパッケージ開発も、同時進行で進められました。「名前に『アジア』を入れる」という基本方針に沿ってさまざまな案が出され、事前の調査でZ世代女性の反応がよかった「アジアに恋して」を採用。「ハッシュタグ化しやすいこと、『アジ恋』と略せることが決め手となりました」(西山さん)。また、印象に残る赤いパッケージは「アジアらしいビビッドさを感じさせる色」とし、商品名をアジアンテイストの装飾フレームで囲みました。
苦労と苦心を重ねた新ブランドは、いよいよ店頭へ。安堵の気持ちと同時に「本当に売れるのか」という不安も抱えながら、2人はその日を迎えました。「営業担当者が商品を大きく展開してくれたことや、家族や友人が『食べたよ』と言ってくれたことが、とても嬉しかったです」と西山さん。SNS上での「おいしい」「今までにない味」といった声に励まされたり、厳しい意見にも目を通したりと、「アジ恋」一色の毎日が続きました。
発売から数か月を経て、西山さんは「何度も繰り返し手に取ってもらえる商品に育てたい」と語り、発売直前にマーケティング部に異動した荻野さんも「研究者としての経験を活かしながら、品質とブランド訴求をどう結びつけていくかが重要だと考えています」と、2人の目線は先を向いています。「10年ぶりの新ブランド」というプレッシャーとの闘いから、長く愛されるブランド育成へ。「アジアに恋して」の物語は、まだ始まったばかりです。