産学医の連携で人工透析患者の方々のQOL向上を
在宅専用装置の実装に向け、シンポジウム開催
2026.04.28
冒頭、ロッテホールディングス代表取締役社長CEO、玉塚 元一が登壇し、ロッテグループが展開するヘルスケア・バイオ医薬事業について語りました。祖業のガムを軸とした「噛むこと」の研究・啓発に加え、日韓連携によるグローバルCDMO(医薬品開発製造受託)企業・ロッテバイオロジクス(本社:韓国ソウル)の設立や、革新的な技術を持つスタートアップに投資するCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の立ち上げによって、世界が抱える健康・社会課題の解決に挑んでいることを説明。「大がかりな設備を必要とする食品や化学分野で培ってきた高い製造技術と品質管理のノウハウ、さらに日韓ロッテの力を結集し、ヘルスケア・バイオ医薬分野でも新たな付加価値を提供していきたい」と述べました。
続いて、北里大学特任教授の冨士良宏氏が「いのちを尊び、生命の真理を探求し、実学の精神を持って社会に貢献する」という学校法人北里研究所の理念を紹介し、「ヘルスケア分野における研究成果の社会実装は北里の使命であり、その実現に優れた知財と産学連携が極めて重要だ」と語りました。また、開発中の在宅血液透析装置の社会実装に向け、ロッテホールディングスとの連携が大きな推進力となっていることに触れ、研究成果を速やかに社会へ届けるためのパートナーシップの重要性を強調しました。
基調講演では、日本在宅血液透析学会理事長であり、埼玉医科大学医学部教授の小川智也氏に、日本における人工透析の現状についてご説明いただきました。小川氏によると、約1,480万人に及ぶ慢性腎臓病患者のうち、約34万人弱の腎機能が失われ透析治療を受けています。その約97%は通院による血液透析(血液中の不要な水分や老廃物を機械で取り除き、体内に戻す治療)を受けている一方、在宅でも治療が可能な腹膜透析(腹部に留置したカテーテルから透析液を1日数回出し入れする治療)は全体の3%に過ぎないことを小川氏は具体的に示しました。
在宅透析であれば、自分の生活に合わせた透析スケジュールを組むことができ、就労や就学の継続が可能となるなど、患者さまの社会的活動の幅が広がります。日本で広く普及している血液透析を在宅で受けられれば、治療効果と利便性の双方を享受できますが、利用者は全国でも1,000人に達していません。小川氏は、その要因の一つとして日本では在宅専用の血液透析装置が十分に実装されておらず、医療機関で使用しているものと同じ装置を自宅に導入しなければならないという点を挙げました。
小川氏は「設置場所や給排水設備などのハードルが高く、利用できる患者さまが限られているのが現状です。患者さまのQOL向上や自立支援を実現したいという信念のもと、私たちは在宅血液透析の普及に力を入れています。産業界、学術界、医療界が連携し、この活動を支えていただきたい」と期待を込めて語りました。
北里大学医療衛生学部准教授でフィジオロガス・テクノロジーズの取締役CTOの小久保謙一氏は、同社が開発を進める在宅専用の血液透析装置の概要を紹介しました。現在は、施設透析で使われている装置はもちろんのこと海外で実装されている在宅専用装置も給排水のための配管が必要ですが、フィジオロガス・テクノロジーズでは独自の技術でそれらが不要となる透析システムの開発に成功。「給排水設備が不要な小型軽量の装置を完成させ、患者さま自身がご自宅でも安全にかつ安心して操作できるようになることを目指している。テクノロジーによって医療を革新し、患者さまとご家族に幸せな生活を届けたい」と、小久保氏は開発の意義を説明しました。
さらに、フィジオロガス・テクノロジーズ代表取締役の宮脇一嘉氏が医療機器の開発に要する時間の長さについて言及。「スタートアップが挑むにはこの開発期間と資金の期限のミスマッチが大きな壁となり、日本で医療イノベーションを起こすうえでのハードルになっている」との見方を示し、北里大学の高度な医学的知見とロッテホールディングスによる中長期的な視点に立った投資という協力体制の意義を強調しました。
最後に、ロッテホールディングスのバイオ事業責任者のペク・ジュンをモデレーターにパネルディスカッションを行い、在宅透析が当事者や社会全体にもたらすベネフィット、実装・普及に向けた課題、CVCが果たすべき役割について議論しました。小久保氏は「慢性疾患の治療を家でできるような時代が来ると、医療は大きく変わる」と述べ、この取り組みが未来の医療の世界の第一歩になることへの期待を示しました。ペクは「産学が同じ志を持ち、手を取り合って初めて医療においてのパラダイムシフトが起きると実感した。ロッテとしても、より多くの患者さんに生きる喜びを感じてもられるような技術の開発を、引き続きサポートしていきたい」と、締めくくりました。